And Well 研究所
メンタルヘルス

原因不明の慢性的な不調と向き合うヒント:心理療法「ACT」に学ぶ新しいアプローチ

📄 The Development and Acceptability of a Psychology-Based Intervention for Debilitating Symptom Complexes Attributed to Ticks.

✍️ Dharan, AL., Yap, VMZ., Kanaan, RA., Oliver, G., Sim, YDY., Braat, S., Cotter, G., Chatterton, ML., Mihalopoulos, C., Wilson, SJ., Chalder, T.

📅 論文公開: 2026年1月

慢性的な不調 心理療法 QoL アクセプタンス&コミットメント・セラピー

3つのポイント

  1. 1

    原因不明の慢性的な不調に苦しむ方々のために、新しいオンライン心理療法プログラムが開発されました。

  2. 2

    このプログラムは、つらい症状を無理に消そうとせず、受け入れた上で自分らしい生活を目指す「ACT」という考え方に基づいています。

  3. 3

    試験的に参加した方々からは「精神的な幸福感に役立った」と好評で、今後の本格的な研究が期待されます。

論文プロフィール

  • 著者名 / 発表年 / 掲載誌: Dharan, AL. ら / 2026年 / Health Expectations
  • 調査対象: マダニ咬傷に関連するとされる慢性的な衰弱症状群(DSCATT)を持つオーストラリアの成人(インタビュー13名、プログラム試行6名)
  • 調査内容: 日常生活に支障をきたす原因不明の症状群(DSCATT)に苦しむ人々のための心理療法プログラムを開発し、その受け入れやすさを評価しました。

エディターズ・ノート

原因がはっきりしないのに、なぜかずっと続く体や心の不調。そんなもどかしい悩みを抱えている方はいらっしゃいませんか?

今回は、オーストラリアで報告されている特定の症状群に対する、新しい心理学的アプローチを開発した研究をご紹介します。

この研究が目指す「症状と戦うのではなく、上手に付き合いながら自分らしい生活を取り戻す」という視点から、私たちが日々抱える原因不明の不調と向き合うためのヒントを探ります。

実験デザイン

この研究は、実際に悩んでいる患者さんの声を丁寧に聞きながら、プログラムを開発していく「人間中心設計」というアプローチをとっています。

プログラム開発の4つのステップ

  1. インタビュー(13名): まず、DSCATTに悩む方々にインタビューを行い、どのような困難を抱えているのかを深く理解しました。
  2. プログラム開発: インタビューで得られた声をもとに、専門家が心理療法プログラムの草案を作成しました。
  3. プログラムの試行(6名): 別の6名の方に、開発したプログラムを12週間、オンラインで試してもらいました。
  4. 改良: 試行に参加した方からのフィードバックをもとに、プログラムをさらに使いやすく、効果的なものに改良しました。

開発されたプログラムは、「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」という心理療法をベースにしています。これは、つらい症状や感情を無理になくそうとするのではなく、それらを「あるがままに受け入れ」、自分が大切にしたい価値観に沿った行動を増やしていくことを目指すアプローチです。

プログラムは、週に1回1時間のオンラインセッションを12週間行い、ACTの考え方に加え、DSCATT特有の悩みである認知機能、睡眠、対人関係の問題にも対応する内容が含まれていました。

その結果、プログラムを試した6名全員が「精神的な幸福感や全体的な健康に役立った」「他の患者にも勧めたい」と回答し、このアプローチが高い満足度と受け入れやすさを持つことが示唆されました。

🔍 アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)とは?

ACT(アクト)は、うつ病や不安症、慢性的な痛みなど、幅広い心身の悩みに応用されている心理療法の一つです。

従来の多くの心理療法が「ネガティブな思考や感情を減らす・変える」ことを目指すのに対し、ACTは少し視点が異なります。

  • アクセプタンス(Acceptance): 痛みや不安といった不快な内的体験を、無理にコントロールしようとせず、あるがままに受け入れる姿勢を育みます。
  • コミットメント(Commitment): 自分が人生で何を大切にしたいのか(価値)を明確にし、その価値に沿った具体的な行動(コミットメント)を増やしていくことを目指します。

「症状がなくなるまで、やりたいことは我慢する」のではなく、「症状があっても、自分にとって大切なことを少しずつやってみる」という生き方への転換をサポートするのがACTの大きな特徴です。

日常への活かし方

今回の研究は、特定の症状群を対象とした小規模な予備研究ですが、その根底にある「ACT」の考え方は、原因不明のさまざまな不調と付き合っていく上で、私たちに多くのヒントを与えてくれます。

1. 「戦う」から「観察する」へ

痛み、だるさ、不安感など、不快な感覚があると、私たちはつい「早く消えてほしい」「なんとかしなきゃ」と焦り、その感覚と戦おうとしてしまいます。しかし、それがかえって心身の緊張を高めてしまうことも。

まずは、その感覚を敵視するのをやめて、「今、体(心)のこの部分で、こんな感覚が起きているな」と、少し距離を置いて観察してみることを試してみてはいかがでしょうか。

2. 「症状がなくなったら…」ではなく「今できること」を探す

「体調が万全になったら、旅行に行きたい」「この不安が消えたら、新しいことに挑戦したい」。そう考えて、大切なことを先延ばしにしていないでしょうか。

ACTでは、症状がゼロになることを待つのではなく、「今の自分」にできる範囲で、大切にしたいことに繋がる行動を始めることを後押しします。

例えば、「旅行は無理でも、近所の公園を5分だけ散歩して自然に触れる」「新しい挑戦はできなくても、興味のある分野の本を1ページだけ読んでみる」といった小さな一歩で構いません。

🔍 研究の限界:これはまだ第一歩です

この研究は非常に有望な結果を示しましたが、解釈には注意が必要です。

  • 参加者数が少ない: プログラムを試したのは6名と非常に小規模です。
  • 比較対象がいない: 偽薬 (プラセボ)を使うような比較対照群がいないため、プログラムの効果がどの程度あったのかを正確に判断することはできません。
  • 長期的な効果は不明: プログラム終了後の長期的な効果については検証されていません。

今回の結果はあくまで「このプログラムは患者さんにとって受け入れやすく、有望そうだ」ということを示した段階です。今後、より大規模な ランダム化比較試験 で、その有効性を詳しく検証していく必要があります。

読後感

原因不明の不調は、先の見えないトンネルを歩いているような不安を伴います。

そんな時、「症状を消す」ことだけに囚われるのではなく、「症状と共に、どう生きるか」という視点を持つことが、一筋の光になるかもしれません。

あなたの生活の中で、コントロールしようと頑張りすぎていることはありませんか? 少しだけ肩の力を抜いて、現状の自分を受け入れることから始められるとしたら、どんな小さな一歩が考えられるでしょうか。