And Well 研究所
予防医学

お酒を飲まないのに脂肪肝?最新研究が解き明かす「腸」と「肝臓」の密な関係

📄 The Gut-Liver Axis in Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease: From Mechanistic Insights to Precision Therapeutics.

✍️ Zhu, S., Zou, M., Wu, Q., Zou, Y., Tan, T., Huang, Z., Gong, Z., Luo, H., Dong, X.

📅 論文公開: 2026年1月

腸内環境 肝臓 脂肪肝 MASLD プロバイオティクス

3つのポイント

  1. 1

    腸内環境の乱れが、新しいタイプの脂肪肝「MASLD」を引き起こす重要な原因であることが、最新研究で明らかになってきました。

  2. 2

    特定の善玉菌(次世代プロバイオティクス)の活用など、腸内環境を標的とした新しい治療法の開発が世界中で進んでいます。

  3. 3

    将来的には、個人の遺伝子と腸内環境をAIで分析し、一人ひとりに合った精密な予防や治療を行う時代が訪れるかもしれません。

論文プロフィール

  • 著者名 / 発表年 / 掲載誌: Zhu, S. ら / 2026年 / The FASEB Journal
  • 調査対象: 2023年から2025年にかけて発表された、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)と腸内マイクロバイオームに関する最先端の研究論文。
  • 調査内容: MASLDの病態における「腸肝連関」の役割と、腸内細菌を標的とした診断・治療法の最新動向をまとめたレビュー論文です。

エディターズ・ノート

健康診断で「脂肪肝」を指摘される方が増えています。原因はお酒や食べ過ぎだけ、と思っていませんか?

実は最近、「腸内環境」が肝臓の健康に深く関わっていることが分かってきました。今回は、腸と肝臓の驚くべきつながり「腸肝連関」に焦点を当て、新しいタイプの脂肪肝「MASLD」との関係を解説した最新のレビュー論文をご紹介します。

実験デザイン

この論文は、特定の実験を行ったものではなく、2023年から2025年にかけて発表された複数の最先端研究を分析し、現在の知見をまとめた「レビュー論文」です。

論文によると、腸と肝臓は「腸肝連関」という仕組みで密接に結びついています。腸内環境が乱れると、腸のバリア機能が低下し、本来であれば体内に入るべきでない物質が血流に乗って肝臓に直接運ばれてしまいます。これが肝臓に炎症や脂肪蓄積を引き起こし、MASLDの発症につながると考えられています。

腸内環境と肝臓の健康状態の関係(概念図) 0 16 32 48 64 80 肝臓の健康度(イメージ) 80 健康な腸 30 乱れた腸
腸内環境と肝臓の健康状態の関係(概念図)
項目 肝臓の健康度(イメージ)
健康な腸 80
乱れた腸 30
腸内環境と肝臓の健康状態の関係(概念図)

この論文では、こうしたメカニズムの解明から一歩進み、腸内環境を整えることがMASLDの新しい治療法になりうる可能性が示されています。

例えば、健康な人の便を移植する「糞便微生物移植(FMT)」や、「アッカーマンシア・ムシニフィラ菌」といった特定の善玉菌(次世代プロバイオティクス)を使った臨床試験が始まっています。

🔍 MASLDって、これまでの脂肪肝と何が違うの?

これまで脂肪肝は、アルコールが原因の「アルコール性脂肪性肝疾患」と、それ以外の「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」に大別されていました。

しかし最近、NAFLDと診断された人々の多くが、肥満や2型糖尿病、高血圧といった代謝機能の異常を併せ持っていることが分かり、より病態を正確に表すために「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」という新しい診断名が提唱されました。これは、診断のパラダイムが「アルコールを飲まない」という消極的な理由から、「代謝異常がある」という積極的な理由へと転換したことを意味します。

日常への活かし方

この論文は、腸内環境を整えることが、肝臓の健康を守る上で非常に重要であることを示唆しています。私たちの日常生活では、以下の点を意識すると良いかもしれません。

1. 「育菌」を意識した食生活を心がける

特定の菌をサプリで摂ることも一つの手ですが、まずは日々の食事で、腸内にいる多様な善玉菌を「育てる」ことを意識してみましょう。

  • プロバイオティクス: ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌などの発酵食品。生きた善玉菌を直接腸に届けます。
  • プレバイオティクス: 野菜、果物、きのこ、海藻類、全粒穀物などに含まれる食物繊維やオリゴ糖。腸内にいる善玉菌のエサになります。

両方をバランスよく摂る「シンバイオティクス」という考え方が、健康な腸内環境の維持に役立ちます。

🔍 注目の善玉菌『アッカーマンシア菌』とは?

論文でも言及されている「アッカーマンシア・ムシニフィラ」は、近年注目されている善玉菌の一種です。この菌は、腸の粘膜バリアを強化したり、炎症を抑えたり、血糖値をコントロールしたりする働きがあることが報告されています。

現時点では、この菌を含む食品は日本ではまだ一般的ではありませんが、食物繊維を豊富に摂ることで、自分自身の腸内でアッカーマンシア菌を増やすことができる可能性が研究で示唆されています。

2. 個人の体質を理解する

この論文では、特定の遺伝子(PNPLA3変異など)がMASLDのリスクを高めるだけでなく、腸内環境のバランスにも影響を与える可能性が指摘されています。

これは、「すべての人に同じ健康法が効くわけではない」ということを意味します。画一的な情報に頼るだけでなく、自分の体調の変化によく耳を傾け、自分に合った生活習慣を見つけていくことが大切です。


もちろん、この研究で紹介されている糞便移植や次世代プロバイオティクスは、まだ研究開発段階のものが多く、誰もがすぐに受けられる治療法ではありません。また、腸内環境は食事だけでなく、運動、睡眠、ストレスなど様々な要因に影響されます。

この結果がすべての人に当てはまるとは限りませんが、肝臓の健康を考える上で「腸をいたわる」という新しい視点を持つことは、非常に有益だと言えるでしょう。

読後感

専門的な治療はまだ先のことかもしれませんが、「腸の健康が、巡り巡って肝臓を守ることにつながる」という事実は、日々の生活習慣を見直す良いきっかけになるのではないでしょうか。

あなたの腸と肝臓をいたわるために、明日から始められそうな小さな一歩は何ですか?