自己判断の薬、胃を傷つけていませんか? ── 中国の大規模調査が示す「市販薬セルフ購入」と胃疾患リスクの関連
📄 Association between self-purchased medication use and gastric disease among Chinese adults: a cross-sectional analysis based on CHARLS 2018 data.
✍️ Hou, H., Wang, Y., Zuo, P., Yang, L., Yan, X., Wei, J., Jing, Y., Zhang, N., Wang, J.
📅 論文公開: 2026年1月
3つのポイント
- 1
医師の処方を受けずに自分で薬を購入・服用している人は、胃の病気を抱えるリスクが約1.75倍高いことが大規模調査で示されました。
- 2
慢性腎臓病や糖尿病を持つ方では、そのリスクがさらに高まる傾向がみられました。
- 3
薬を飲む前に専門家に相談する習慣が、胃の健康を守るうえで大切であることを示唆する研究です。
論文プロフィール
- 著者: Hou, H. ら 9名
- 発表年: 2026年
- 掲載誌: BMC Public Health
- 調査対象: 中国の中高年を対象とした大規模縦断調査(CHARLS 2018)の参加者 19,752名(胃疾患群 659名、対照群 5,428名)
- 調査内容: 医師の処方なしに自分で購入・服用する薬(セルフ購入薬)の使用と、胃疾患の有無との関連
エディターズ・ノート
「ちょっと胃が痛いから」「頭痛がするから」と、薬局やドラッグストアで薬を買って飲む――これは多くの方に心当たりのある日常の光景です。しかし、その”手軽さ”が胃に負担をかけている可能性を、約2万人規模のデータが示しました。日本でもセルフメディケーションが推進されるなか、「薬との正しい付き合い方」を考えるヒントとしてお届けします。
実験デザイン
本研究は、中国で実施されている全国規模の中高年追跡調査「CHARLS(China Health and Retirement Longitudinal Study)」の2018年データを用いた横断研究です。
研究の進め方を整理すると、次のようになります。
- 対象者の振り分け: 質問票の回答をもとに、胃疾患ありの659名と、胃疾患なしの対照群5,428名に分類しました。
- 薬の使用状況を比較: 両グループで「医師の処方なしに自分で薬を購入・服用しているか」を比較しました。
- 他の要因を考慮した統計分析: 年齢・性別・生活習慣・持病(高血圧・糖尿病・腎臓病など)の影響を取り除いたうえで、薬のセルフ購入と胃疾患の関連を調べました。
統計手法としては多変量ロジスティック回帰分析を用い、段階的に調整変数を増やした3つのモデルを構築しています。
主な結果は以下のとおりです。
| 項目 | 調整オッズ比 |
|---|---|
| 全体 | 1.75 |
| 慢性腎臓病あり | 1.89 |
| 糖尿病あり | 1.82 |
- セルフ購入薬を使用している人は、使用していない人と比べて胃疾患を抱えている割合が約1.75倍高いという結果でした(調整オッズ比 = 1.75、95%信頼区間 1.46〜2.09)。
- 慢性腎臓病(CKD)を持つ人では約1.89倍、糖尿病を持つ人では約1.82倍と、持病がある方でリスクがさらに高まる傾向が確認されました。
- 予測モデルの精度を示すAUC(曲線下面積)は0.71で、「中程度の識別力」と評価されています。
🔍 オッズ比1.75とはどのくらいの大きさ?
オッズ比(OR)は「ある条件のもとで、イベントが起こりやすくなる度合い」を示す指標です。OR = 1.75 は、セルフ購入薬を使っている人が胃疾患を持つ確率が、使っていない人の約1.75倍であることを意味します。
ただし、これは「因果関係」を直接示すものではありません。横断研究の特性上、「胃の調子が悪い人が自分で薬を買っている」という逆の因果(胃が悪いから薬を買う)の可能性も排除しきれない点には注意が必要です。
🔍 なぜ持病がある人でリスクが高まるのか
慢性腎臓病や糖尿病をお持ちの方は、すでに複数の薬を服用していることが多く、自己判断で追加の薬を飲むと薬の相互作用が起こりやすくなります。
また、腎臓の機能が低下していると薬の代謝・排泄が遅くなり、体内に薬が長く留まることで胃粘膜へのダメージが増す可能性があります。糖尿病では胃の動きが低下する「胃不全麻痺」などの合併症もあり、胃の防御機能そのものが弱まっている場合があります。
日常への活かし方
この研究は中国の中高年を対象としたものであり、結果をそのまま日本のすべての方に当てはめることはできません。また、横断研究であるため「セルフ購入薬が胃疾患を引き起こす」という因果関係を断定するものでもありません。
そうした限界を踏まえつつも、日常で参考にできるポイントがあります。
1. 市販薬は「短期間・最小限」を意識する
痛み止め(NSAIDs)や風邪薬など、胃に負担をかけやすい薬を自己判断で長期間飲み続けることは避けましょう。パッケージに記載された用法・用量を守り、数日で改善しない場合は医療機関を受診することが大切です。
2. 持病がある方は特に慎重に
高血圧・糖尿病・腎臓病など、慢性疾患の治療中の方は、市販薬を買う前にかかりつけの医師や薬剤師に相談する習慣をつけましょう。すでに服用中の薬との飲み合わせを確認してもらうだけでも、リスクを減らせる可能性があります。
3. 「お薬手帳」を活用する
処方薬だけでなく、自分で購入した市販薬やサプリメントもお薬手帳に記録しておくと、医師・薬剤師が全体像を把握しやすくなります。スマートフォンのアプリでも管理できます。
🔍 日本のセルフメディケーション事情
日本では2017年からセルフメディケーション税制が導入され、市販薬の活用が推奨される流れがあります。これ自体は医療費適正化の観点で重要な取り組みですが、「手軽に買える=安全」という誤解が広がるリスクもあります。
本研究が示すように、専門家の助言なしに薬を使い続けることには潜在的なリスクがあります。セルフメディケーションの恩恵を受けつつ、薬剤師への相談を「セット」で考えることが、賢い薬との付き合い方といえるかもしれません。
読後感
「ちょっとした不調」に手軽に対処できる市販薬は、私たちの強い味方です。しかし、その手軽さゆえに「飲み過ぎ」や「飲み合わせの見落とし」が起きやすいのもまた事実です。
あなたが普段、自己判断で飲んでいる薬はありますか? もし心当たりがあれば、次に薬局を訪れたとき、薬剤師に「この薬、このまま飲み続けて大丈夫ですか?」と一言聞いてみてはいかがでしょうか。