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睡眠医学

スマホを10日間制限したら睡眠はどう変わる?若年男性254名の観察研究

📄 Sleep-Related Problems and Problematic Smartphone Use in Young Adult Males: Findings from a Short-Term Behavioral Restriction Study.

✍️ Özen Gökmuharremoğlu, Ö., Çoban Taşkın, A.

📅 論文公開: 2026年1月

スマートフォン依存 睡眠の質 睡眠衛生 行動制限 若年成人

3つのポイント

  1. 1

    スマートフォンの使用リスクが高い人ほど、夜間の使用時間が長く、睡眠の質や日中の眠気に問題を抱えていました。

  2. 2

    10日間のスマホ制限後、睡眠衛生(寝る前の行動習慣)と主観的な睡眠の質には改善が見られました。

  3. 3

    一方で、不眠の重症度や日中の眠気はあまり変化せず、短期間では改善しにくい側面もあることが示されました。

論文プロフィール

  • 著者: Özen Gökmuharremoğlu, Ö. & Çoban Taşkın, A.(2026年発表)
  • 掲載誌: Neuropsychiatric Disease and Treatment
  • 調査対象: トルコの警察学校に在籍する若年男性 254名
  • 調査内容: 10日間の施設主導によるスマートフォン使用制限が、睡眠の質・睡眠衛生・不眠・日中の眠気にどのような影響を及ぼすかを前後比較で検討

エディターズ・ノート

「寝る前のスマホはよくない」と言われて久しいですが、実際にスマホを手放したら睡眠はどこまで改善するのでしょうか。施設環境で全員一律にスマホを制限するという、日常ではなかなか実現できない条件のもとで行われた本研究は、「変わる部分」と「変わりにくい部分」を具体的に示してくれます。

実験デザイン

本研究は、警察学校の制度として行われた 10日間のスマートフォン使用制限を活用した前後比較観察研究です。

参加者の分類

254名の参加者は、スマートフォン依存度を測る質問票(SAS-SV: Smartphone Addiction Scale-Short Version)のスコアに基づいて、低リスク群高リスク群の2つに分けられました。

測定された4つの睡眠指標

制限前と制限後に、以下の4つの指標が測定されました。

  1. 睡眠の質(PSQI: ピッツバーグ睡眠質問票)
  2. 睡眠衛生(SHI: 寝る前の行動習慣がどれだけ適切か)
  3. 不眠の重症度(ISI: 不眠症状の程度)
  4. 日中の眠気(ESS: 昼間にどれくらい眠くなるか)
スマホ制限後の各睡眠指標の改善度合い(概念図:実際の効果量を正確に反映したものではありません) 0 16 32 48 64 80 改善の程度(相対的イメージ) 80 睡眠衛生 70 睡眠の質 25 不眠の重症度 20 日中の眠気
スマホ制限後の各睡眠指標の改善度合い(概念図:実際の効果量を正確に反映したものではありません)
項目 改善の程度(相対的イメージ)
睡眠衛生 80
睡眠の質 70
不眠の重症度 25
日中の眠気 20
スマホ制限後の各睡眠指標の改善度合い(概念図:実際の効果量を正確に反映したものではありません)

主な結果

  • 改善が見られた指標: 睡眠衛生(寝る前にスマホを触らなくなるなどの行動変化)と、主観的な睡眠の質
  • 変化が限定的だった指標: 不眠の重症度と日中の眠気
  • 高リスク群は制限前の時点で、特に夕方〜夜間のスマホ使用時間が長く、睡眠衛生や睡眠の質が低リスク群より悪い傾向にありました
🔍 なぜ不眠や日中の眠気は改善しにくかったのか

睡眠に関わる問題には、大きく分けて2つの種類があります。

  • 行動的な要因: 寝る前にスマホを見る、カフェインを遅くまで摂るなど、自分の行動で変えられるもの
  • 生理的な要因: 体内時計のリズム、脳の覚醒・睡眠を制御する神経回路など、より深い身体の仕組みに根ざすもの

今回の研究で改善が見られたのは、主に前者の行動的要因に関わる指標でした。不眠や日中の眠気は、体内時計や神経系の調整が関わるため、10日間という短い制限期間では十分な変化が起きにくかったと考えられます。

🔍 研究デザインの限界について

本研究にはいくつかの留意点があります。

  • 対象が若年男性のみ: 警察学校の学生に限定されているため、女性や他の年齢層に同じ結果が当てはまるかは不明です。
  • 対照群がない: 全員が一律にスマホ制限を受けたため、「制限しなかった場合」との厳密な比較ができません。 ランダム化比較試験 ではなく、観察研究である点に注意が必要です。
  • 施設環境の影響: 寮生活で生活リズムが統一されていたため、一般的な生活環境とは条件が異なります。
  • 10日間という期間: より長期の制限であれば、不眠や日中の眠気にも変化が出る可能性があります。

日常への活かし方

この研究を踏まえると、私たちの日常では以下のようなことを意識してみると良いかもしれません。

1. 夜のスマホ使用時間を「意識的に区切る」

高リスク群では、特に夕方〜就寝前のスマホ使用時間が長いことが睡眠の質の低下と関連していました。完全にやめる必要はなくても、「22時以降はスマホを寝室に持ち込まない」「布団に入る30分前には画面を閉じる」といった小さなルールを試してみる価値がありそうです。

2. 「睡眠衛生」を整えることから始める

本研究で最も改善が見られたのは、睡眠衛生(寝る前の行動習慣)でした。これは裏を返せば、日常のちょっとした行動を変えるだけでも睡眠の質に良い影響が期待できるということです。

  • 寝る前のスマホ・タブレットの使用を減らす
  • 就寝時間をなるべく一定にする
  • 寝室を暗く、涼しく保つ

3. すぐに完璧を求めない

不眠の重症度や日中の眠気は10日間では大きく変わりませんでした。睡眠の問題は行動改善だけですべて解決するわけではなく、身体のリズムが整うまでにはある程度の時間がかかります。「効果がすぐ出ない=意味がない」ではないことを覚えておきたいところです。

🔍 スマホの「何を見ているか」も大切かもしれない

本研究では、スマホの使用目的(SNS・動画・ゲームなど)と睡眠指標の関連も検討されています。使用時間の長さだけでなく、刺激の強いコンテンツ(ゲームやSNSの通知など)は脳の覚醒レベルを上げやすく、入眠を妨げる可能性があります。

もし就寝前にスマホを使うなら、刺激の少ないコンテンツ(読書アプリ、落ち着いた音楽など)に限定するというのも一つの工夫です。ただし、これについてはさらなる研究が必要な領域です。

読後感

「寝る前のスマホをやめましょう」というアドバイスは、もはや聞き飽きたと感じる方もいるかもしれません。しかし今回の研究は、実際にスマホを手放したとき何が変わり、何が変わらないかを具体的に見せてくれました。

変わったのは、寝る前の行動習慣と、自分で感じる睡眠の質。変わらなかったのは、不眠や日中の眠気といった、より身体の深い仕組みに関わる部分でした。

あなたの就寝前の1時間を振り返ったとき、「これはなくても困らないな」と思えるスマホ習慣はありますか?