And Well 研究所
メンタルヘルス

つらい悲しみとどう向き合う? マインドフルネスが心を軽くする可能性

📄 Mindfulness-Based Interventions for Bereavement: A Systematized Narrative Review.

✍️ D'Antoni, F., Mattiussi, F., Crescentini, C.

📅 論文公開: 2026年1月

マインドフルネス メンタルヘルス グリーフケア ストレス

3つのポイント

  1. 1

    大切な人を失った後のつらい気持ちを和らげる方法として、マインドフルネスが注目されています。

  2. 2

    過去の17件の研究を分析した結果、マインドフルネスは悲しみからくる苦痛や抑うつ症状を改善する可能性が示されました。

  3. 3

    ただし、エビデンスはまだ予備的な段階であり、より確かな効果を証明するには今後の研究が必要です。

論文プロフィール

  • 著者名 / 発表年 / 掲載誌: D’Antoni, F. ら / 2026年 / Healthcare
  • 調査対象: 死別を経験した人々を対象としたマインドフルネス介入に関する17件の研究
  • 調査内容: マインドフルネスが悲嘆、抑うつ、心理的幸福感に与える影響をまとめたレビュー論文

エディターズ・ノート

大切な人との別れは、誰にとってもつらく、心に大きな穴が空いたように感じるものです。この深い悲しみと、私たちはどう向き合っていけば良いのでしょうか。

今回は、心を「今、ここ」に集中させる練習である「マインドフルネス」が、大切な人を失った後の心のケア(グリーフケア)にどう役立つかをまとめた最新の研究をご紹介します。

実験デザイン

この研究は、特定の人々を対象に新しい実験を行ったものではなく、過去に発表された17件の論文を集めて分析した「レビュー論文」です。

具体的には、「体系的ナラティブレビュー」という手法を用いて、マインドフルネスが死別を経験した人々の心にどのような影響を与えたかを整理しています。

その結果、マインドフルネスを実践することで、以下のような心の変化が期待できる可能性が示唆されました。

マインドフルネスがもたらす心の変化(概念図) 0 15 30 45 60 75 心の状態の変化 -60 悲しみによる苦 -55 抑うつ気分 70 心の平穏 75 自分への優しさ
マインドフルネスがもたらす心の変化(概念図)
項目 心の状態の変化
悲しみによる苦痛 -60
抑うつ気分 -55
心の平穏 70
自分への優しさ 75
マインドフルネスがもたらす心の変化(概念図)

この図は、マインドフルネスの実践が、悲嘆に伴う苦痛や抑うつ気分といったネガティブな感情を和らげ、心の平穏や自分を思いやる気持ち(セルフ・コンパッション)といったポジティブな側面を育む可能性を示しています。

🔍 レビュー論文とは?

科学研究には、新しい実験を行う「一次研究」と、過去の一次研究を複数集めて分析する「レビュー論文」があります。

今回の論文は後者にあたり、個々の研究だけでは見えにくい全体的な傾向を把握するのに役立ちます。いわば、森全体を眺めるようなアプローチです。

ただし、レビュー論文の結論は、元になった個々の研究の質に左右されるという特徴もあります。

🔍 悲しみを増幅させる「反芻(はんすう)」とは?

論文では、マインドフルネスが「反芻(rumination)」を減らす可能性が指摘されています。

反芻とは、過去の出来事や失敗、つらい感情などを繰り返し考えてしまう心の働きのことです。例えば、「あの時もっとこうしていれば…」という後悔が頭から離れない状態がこれにあたります。

このような思考のループは、悲しみや抑うつを長引かせる一因とされています。マインドフルネスは、そうした思考のループに気づき、距離を置く手助けをしてくれると考えられています。

日常への活かし方

今回の研究は、マインドフルネスが大切な人を失った後のつらい心に寄り添う、一つの選択肢になりうることを示唆しています。

この結果を踏まえると、私たちの日常では、無理に悲しみを忘れようとするのではなく、自分の感情を静かに見つめる時間を意識することが、助けになるかもしれません。

ただし、このレビューで分析された研究はまだ小規模なものが多く、マインドフルネスがすべての人に同じように効果があるとは限りません。 特に悲しみが深く、日常生活に支障が出ている場合は、カウンセラーなどの専門家に相談することが非常に重要です。

その上で、心が少し落ち着いている時に試せる、簡単なヒントを2つご紹介します。

1. 「今、ここ」の呼吸に意識を向ける

つらい気持ちがこみ上げてきたら、まずは楽な姿勢で座り、静かに目を閉じてみましょう。そして、ただ自分の呼吸に意識を向けます。

  • 息を吸うときに、空気が鼻を通って体に入ってくる感覚
  • 息を吐くときに、お腹がへこんでいく感覚

雑念が浮かんでも、「あ、今、別のことを考えていたな」と気づくだけで大丈夫です。そして、またそっと呼吸に意識を戻します。まずは1日1分からでも構いません。

2. 自分自身に優しくなる(セルフ・コンパッション)

大切な人を失ったとき、自分を責めてしまうことがあるかもしれません。そんな時は、親しい友人を慰めるように、自分自身に優しい言葉をかけてみましょう。

「悲しいのは当たり前だよ」 「今までよく頑張ってきたね」

自分を責めるのではなく、自分の感情をありのままに受け入れ、労ってあげることが、回復への大切な一歩となります。

🔍 なぜマインドフルネスがグリーフケアに?

マインドフルネスは、つらい感情や思考を無理やり消そうとするのではなく、「ただそこにあるもの」として距離を置いて観察する練習です。

この「距離を置く」感覚を、専門的には「脱中心化(decentering)」と呼びます。

悲しみの渦中にいると、自分自身が悲しみそのものになったように感じてしまいます。しかし、マインドフルネスを通じて「自分は、悲しみという感情を“感じている”存在だ」と客観的に捉えられるようになると、感情に飲み込まれにくくなります。

この心の働きが、悲しみとの健全な向き合い方をサポートすると考えられています。


読後感

深い悲しみの中にいるとき、何か新しいことを始めるのは難しいかもしれません。

もし今、あなたが心を少しでも落ち着けたいと感じているなら、まずは一度だけ、ゆっくりと深呼吸をしてみませんか?

自分の心と体に意識を向けるその小さな一歩が、何かを変えるきっかけになるかもしれません。