And Well 研究所
運動科学

子どもの体力、平均はどれくらい?12,000人のデータから見る成長の目安

📄 Normative values for cardiopulmonary exercise testing in the pediatric population - an updated systematic review.

✍️ Kasiak, P., Kowalski, T., Zanini, M., Ozemek, C., Faiss, R., Debevec, T., Mamcarz, A., Śliż, D., Chomiuk, T., Ragazzoni, G.L., Arena, R., D'Ascenzi, F., Takken, T.

📅 論文公開: 2026年1月

子供の体力 運動能力 体力測定 システマティックレビュー 成長

3つのポイント

  1. 1

    世界中の12,000人以上の子供のデータを集め、持久力を示す体力(心肺機能)の最新の基準値を調査しました。

  2. 2

    子どもの体力は、年齢や性別だけでなく、人種や体格、住んでいる地域によっても大きく異なることがわかりました。

  3. 3

    特に肥満傾向の子や非白人の子のデータはまだ少なく、一人ひとりの特性に合った体力評価の必要性が示唆されています。

論文プロフィール

  • 著者名: Kasiak, P. ら
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: European Journal of Preventive Cardiology
  • 調査対象: 18歳未満の健康な子ども・青少年 12,083名(15件の研究データを統合)
  • 調査内容: 心肺運動負荷試験(CPET)によって測定された、子どもの体力(特に最大酸素摂取量)に関する基準値を更新するための システマティックレビュー

エディターズ・ノート

「うちの子、周りの子と比べて体力はある方なのかな?」 子どもの健やかな成長を願う保護者の方なら、一度はそう考えたことがあるかもしれません。 今回は、世界中の1万人以上の子どものデータを分析し、「子どもの体力の基準」をアップデートした最新の研究をご紹介します。

実験デザイン

この研究は、特定の実験を行ったものではなく、過去に発表された複数の論文データを集めて統合・分析する「 システマティックレビュー 」という手法を用いています。

  • データソース: 6つの科学データベースから、18歳未満の健康な子どもを対象とした15件の研究を抽出。
  • 参加者: 合計12,083名(うち女の子が約49%)のデータが含まれます。
  • 評価項目: 主要な評価項目は「最大酸素摂取量(V̇O2peak)」です。これは、運動中に体内に取り込める酸素の最大量を指し、全身持久力の最も重要な指標とされています。

この研究で分析対象となった子どもたちが、どのような環境で募集されたかを下のグラフに示します。

分析対象となった研究の募集元の内訳(概念図) 0 2 3 5 6 8 研究件数 8 地域コミュニティ 6 病院 1 アスリート
分析対象となった研究の募集元の内訳(概念図)
項目 研究件数
地域コミュニティ 8
病院 6
アスリート 1
分析対象となった研究の募集元の内訳(概念図)

地域で広く募集された研究が最も多く、次いで病院経由での参加、そしてスポーツ選手に特化した研究も1件含まれていました。 このように、様々な背景を持つ子どもたちのデータを集めることで、より一般的な基準値を探ろうとしています。

🔍 なぜ「最大酸素摂取量」が体力の指標になるの?

私たちが運動するとき、筋肉は酸素を使ってエネルギーを生み出します。 運動が激しくなるほど、より多くの酸素が必要になります。

「最大酸素摂取量(V̇O2peak)」とは、この時に体内に取り込める酸素の限界値のことです。 この数値が高いほど、

  • 心臓が血液を力強く送り出す能力
  • 肺が酸素を取り込む能力
  • 筋肉が酸素を利用する能力

が総合的に高いことを意味します。そのため、マラソン選手のような持久力が求められるアスリートは、この数値が非常に高くなります。 子どもにとっても、この数値は将来の健康にも関わる大切な体力のバロメーターなのです。

日常への活かし方

この研究から、私たちが日常生活で活かせるポイントを考えてみましょう。

1. 「平均」はあくまで目安と心得る

研究の結果、子どもの最大酸素摂取量は26.0〜56.3 mL·kg-1·min-1と、非常に広い範囲に分布していることがわかりました。 これは、体力が年齢や性別だけでなく、人種や体格、生活習慣によって大きく異なることを示しています。

大切なのは、画一的な「平均値」と比べて一喜一憂するのではなく、お子さん自身の過去と比べて成長を見守ることかもしれません。 「前より長く走れるようになったね」「坂道を休まずに登れたね」といった、個人の成長を褒めてあげることが、子どもの運動への意欲につながります。


2. 「楽しい」と感じる運動を応援する

この研究は、心肺機能を高めることの重要性を改めて示唆しています。 心肺機能を高めるには、「少し息が弾むくらいの運動」が効果的です。

とはいえ、子どもに「体力をつけるために走りなさい」と言っても長続きしません。

  • 鬼ごっこ
  • ボール遊び
  • ダンス
  • 自転車
  • 水泳

など、お子さんが夢中になれる遊びの中に、自然と体力を養うチャンスが隠されています。 まずは親子で一緒に楽しめることを見つけるのが、運動習慣づくりの第一歩になりそうです。

🔍 研究の限界:まだデータが足りない子どもたち

この研究は非常に大規模なものですが、著者らはいくつかの限界点も指摘しています。

  • 肥満・過体重の子どものデータ不足: ほとんどの研究が標準的な体格の子どもを対象としており、肥満や過体重の子どもの体力基準はまだ十分にわかっていません。
  • 人種の偏り: 参加者の多くが白人であり、他の人種の子どもたちのデータは依然として不足しています。

このことから、今回示された基準値が、世界中のすべての子どもにそのまま当てはまるわけではない、という点には注意が必要です。 多様な背景を持つ子どもたちのデータを集めることが、今後の課題といえるでしょう。

読後感

子どもの体力は、目に見えにくいからこそ気になるもの。 この研究は、その一つの「ものさし」を示してくれましたが、同時に、一人ひとりの個性や成長のペースを尊重することの大切さも教えてくれます。

平均と比べるだけでなく、あなたのお子さん自身が「できた!」「楽しい!」と感じられるような運動の機会を、どのように作ってあげられるでしょうか?