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予防医学

老化を加速させる『S100A8/A9』とは? 全身の炎症に関わるタンパク質の正体

📄 S100A8/A9 as a central hub in inflammaging: cross-system mechanisms.

✍️ Wang, S., Ni, Y., Feng, J., Zhang, W., Zhou, M., Zhao, C.

📅 論文公開: 2026年1月

老化 慢性炎症 インフラメイジング S100A8/A9 予防医療

3つのポイント

  1. 1

    加齢に伴い体内で静かに続く慢性的な炎症「インフラメイジング」が、様々な病気のリスクを高めます。

  2. 2

    体内の『S100A8/A9』というタンパク質が、この老化と炎症の悪循環を加速させる中心的な役割を担っていることが示唆されました。

  3. 3

    このタンパク質の働きを抑えることが、将来的に健康寿命を延ばす新しいアンチエイジング戦略につながる可能性があります。

論文プロフィール

  • 著者名 / 発表年 / 掲載誌: Wang, S. et al. / 2026年 / Ageing Research Reviews
  • 調査対象: インフラメイジング(加齢に伴う慢性炎症)とS100A8/A9タンパク質に関する既存の研究論文
  • 調査内容: S100A8/A9というタンパク質が、老化と炎症の相互作用においてどのような役割を果たしているかを体系的にレビューしたもの

エディターズ・ノート

「なんとなく調子が悪い」「年のせいかな?」と感じることはありませんか。その背景には、加齢とともに進む『慢性炎症』が隠れているかもしれません。今回は、この老化と炎症の悪循環を加速させる中心的なタンパク質「S100A8/A9」に焦点を当てた最新のレビュー論文をご紹介します。

実験デザイン

この研究は、特定の集団を対象に新しい実験を行ったものではなく、これまで発表された関連論文を網羅的に収集・分析した システマティックレビュー です。

論文によると、「S100A8/A9」というタンパク質は、老化と炎症が互いに影響し合う「インフラメイジング」という現象の中心的なハブ(中継点)として機能していると述べられています。

このS100A8/A9が増えることで、全身の様々なシステムに悪影響が及ぶ可能性が指摘されています。

S100A8/A9が全身のシステムに与える影響(概念図) 0 19 38 57 76 95 影響の大きさ(イメージ) 80 神経系 85 心血管系 90 代謝系 75 筋肉 95 がん
S100A8/A9が全身のシステムに与える影響(概念図)
項目 影響の大きさ(イメージ)
神経系 80
心血管系 85
代謝系 90
筋肉 75
がん 95
S100A8/A9が全身のシステムに与える影響(概念図)
🔍 そもそも『インフラメイジング』とは?

インフラメイジング(Inflammaging)とは、「炎症(Inflammation)」と「老化(Aging)」を組み合わせた造語です。 若い頃は、ケガや感染があった時に一時的に炎症が起きて治まります。しかし、加齢とともに、特に目立った原因がないのに、体内で常に弱い炎症がくすぶり続ける状態になることがあります。 この静かなる炎症が、動脈硬化や糖尿病、神経系の疾患、筋力の低下など、様々な加齢関連疾患の引き金になると考えられており、近年の老化研究で非常に注目されている概念です。

具体的には、S100A8/A9は以下のような悪影響に関わるとされています。

  • 神経系: 神経の炎症や細胞の損傷を促進する
  • 心血管系: 血管の老化を早め、動脈硬化のプラークを不安定にする
  • 代謝: 脂肪組織の機能不全や、血糖値を下げるインスリンが効きにくくなる状態(インスリン抵抗性)を引き起こす
  • 筋肉: 筋肉の萎縮や、心身の活力が低下した状態(フレイル)を誘発する
  • がん: 免疫の働きを抑えたり、化学療法の効果を弱めたりする

このように、S100A8/A9は「老化 → 炎症 → さらなる老化の促進」という負のループの中心にいる可能性が示唆されています。


日常への活かし方

この論文は、S100A8/A9というタンパク質の役割を解明したもので、直接的に「これをすればS100A8/A9が減る」という方法を示したものではありません。治療法もまだ研究段階です。

しかし、その根底にある「慢性炎症をいかにコントロールするか」という視点は、私たちの日常生活に活かすことができます。S100A8/A9を直接たたくことはできなくても、炎症が起きにくい体づくりを心掛けることは、健康寿命を延ばす上で大切だと考えられます。

1. 抗炎症作用のある食品を意識する

緑黄色野菜や果物に含まれるポリフェノール、青魚に含まれるオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)などは、体内の炎症を抑える働きが期待されています。バランスの良い食事の中で、これらの食品を積極的に取り入れてみるのが良いかもしれません。

2. 定期的な運動を習慣にする

ウォーキングなどの適度な有酸素運動や筋力トレーニングは、炎症を引き起こす物質を減らし、炎症を抑える物質を増やす効果があることが知られています。無理のない範囲で、体を動かす習慣を続けてみましょう。

3. 睡眠の質を高める

睡眠不足は、体内の炎症レベルを高めることが多くの研究で示されています。寝室の環境を整えたり、就寝前のスマホ操作を控えたりするなど、質の良い睡眠を確保するための工夫が大切です。

🔍 S100A8/A9は『悪者』でしかないの?

実は、S100A8/A9は本来、私たちの体を守る免疫システムの一部として重要な役割を担っています。細菌やウイルスが侵入してきた際に、白血球などの免疫細胞を呼び寄せ、感染と戦うために働きます。 問題なのは、この働きが過剰になったり、慢性的に続いたりすることです。必要のない時にも炎症のアクセルを踏み続けてしまうことで、かえって自分の体を傷つけ、老化を促進してしまうと考えられています。何事もバランスが重要ということですね。

この研究の結果は、特定の集団を対象としたものではないため、すべての人に当てはまるとは限りません。しかし、加齢とともになんとなく感じる不調の背景に「慢性炎症」という共通のメカニズムがある可能性を知っておくことは、日々の健康管理のヒントになるはずです。

読後感

「年のせい」と諦めていた体の変化も、実は体内で起きている「小さな火事(慢性炎症)」が原因かもしれません。

ご自身の体をいたわるために、今日から始められる小さな一歩は何でしょうか?