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栄養学

地中海食はがんリスクを下げるのか? 800万人超のメタ分析が示すエビデンス

📄 Efficacy of Mediterranean diet for the primary prevention of oncological diseases: A systematic review and meta-analysis featured in the Italian National Guidelines "La Dieta Mediterranea".

✍️ Brunello, A., Nucci, D., Veronese, N., Laviano, A., Fontana, L., Volpe, M., Maggi, S., Onder, G., Silano, M., Zanetti, M., Casirati, A., Alonzo, E., Fichera, M., Crudele, L., Giussani, C., Misotti, A., Paolini, B., Ragusa, F.S., Trestini, I., Gianfredi, V.

📅 論文公開: 2026年1月

地中海食 がん予防 メタ分析 食事パターン 公衆衛生

3つのポイント

  1. 1

    126件の研究と800万人以上のデータを統合したメタ分析で、地中海食への高い遵守が複数のがん種のリスク低下と関連していることが示されました。

  2. 2

    特に口腔がんで17%、頭頸部がんで12%のリスク低下が報告され、大腸がんや乳がんでも有意なリスク低下が確認されました。

  3. 3

    がんによる死亡リスクも3%低下しており、日々の食事パターンを地中海食に近づけることが、がん予防の一助となる可能性があります。

論文プロフィール

  • 著者: Brunello, A. ら 20名
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Nutrition
  • 調査対象: 126件の既存研究に含まれる800万人以上の参加者
  • 調査内容: 地中海食への遵守度と、各部位別のがん発症リスクおよびがん死亡リスクとの関連

エディターズ・ノート

「がんにならないためにはどんな食事がいいのか?」——これは多くの方が抱く切実な疑問です。テレビやSNSでは「〇〇を食べればがんが防げる」といった情報があふれていますが、その多くは小規模な研究や特定の食品だけに注目したものです。今回ご紹介するのは、126件もの研究を統合し、「食事パターン全体」としての地中海食とがんリスクの関連を検証したイタリア発の大規模 メタ分析 です。

実験デザイン

本研究は、PRISMA 2020およびMOOSEガイドラインに準拠した システマティックレビュー メタ分析 です。

検索対象データベース:

  • PubMed/MEDLINE
  • Scopus
  • Embase
  • Cochrane Library

検索期間は2024年2月28日までに公開された研究が対象です。

解析手法のポイント:

  • 研究の質はNewcastle-Ottawa Scale(ニューキャッスル・オタワ尺度)で評価
  • エビデンスの確実性はNUTRIGRADEアプローチで判定
  • 統計解析にはランダム効果モデルを使用し、リスク比(RR)、ハザード比、オッズ比で結果を統合
🔍 「地中海食の遵守度が1ポイント上がる」とは?

本研究で「遵守度が1ポイント上がるごとに」と表現されているのは、地中海食スコアと呼ばれる指標の変化を指します。

地中海食スコアは、野菜・果物・豆類・穀物・魚・オリーブオイルなどの食品群をどの程度食べているかを点数化したものです。たとえば「野菜を毎日一定量以上食べていれば1点」「赤身肉を控えていれば1点」といった形で加算されます。

つまり、今回の結果は「食生活のうち1項目を地中海食に近づけるだけでも、がんリスクがわずかに下がる可能性がある」と読み替えることができます。

主な結果

地中海食の遵守度が1ポイント上がるごとに、以下のがんリスクの低下が認められました。

地中海食の遵守度1ポイント上昇あたりのがんリスク低下率(論文報告値のRRから算出。口腔がんRR=0.83、頭頸部がんRR=0.88など) 0 3 7 10 14 17 リスク低下率(%) 17 口腔が 12 頭頸部 がん 7 胃がん 6 肝・胆 道がん 5 大腸が 5 乳がん 4 膀胱が 3 がん死
地中海食の遵守度1ポイント上昇あたりのがんリスク低下率(論文報告値のRRから算出。口腔がんRR=0.83、頭頸部がんRR=0.88など)
項目 リスク低下率(%)
口腔がん 17
頭頸部がん 12
胃がん 7
肝・胆道がん 6
大腸がん 5
乳がん 5
膀胱がん 4
がん死亡 3
地中海食の遵守度1ポイント上昇あたりのがんリスク低下率(論文報告値のRRから算出。口腔がんRR=0.83、頭頸部がんRR=0.88など)

具体的な数値は以下のとおりです。

がんの種類リスク比(RR)95%信頼区間
口腔がん0.830.73–0.95
頭頸部がん0.880.78–0.98
胃がん0.930.88–0.97
肝・胆道がん0.940.93–0.96
大腸がん0.950.92–0.98
乳がん0.950.92–0.98
膀胱がん0.960.92–0.995
がん関連死亡0.970.96–0.99

「リスク比0.83」とは、地中海食の遵守度が1ポイント高い人は、そうでない人に比べてそのがんになるリスクが17%低かったことを意味します。

エビデンスの確実性は、主要なアウトカムにおいて 中等度(moderate) と評価されました。

🔍 エビデンスの確実性が「中等度」とはどういう意味?

本研究ではNUTRIGRADEという栄養研究専用のエビデンス評価ツールが使われています。

「中等度」は「今後の研究で結果が大きく変わる可能性は低いが、完全に確定とまでは言えない」というレベルです。最高ランクの「高い」に比べると、研究デザインの違い(観察研究が中心であること)や対象集団のばらつきなどが理由で一段階下がっています。

ただし、800万人以上という大規模なデータに基づいている点は、この分野の研究としては非常に信頼性の高い結果と言えます。

日常への活かし方

この研究は「特定のスーパーフードを食べればがんが防げる」という話ではなく、食事パターン全体を地中海食に近づけることが、がんリスクの低減に関連しているという結果を示しています。

日本の食生活に取り入れやすいヒントを3つご紹介します。

1. 植物性食品の割合を少し増やしてみる

地中海食の基本は、野菜・果物・豆類・全粒穀物といった植物性食品を中心に据えることです。毎食の献立で「もう一品、野菜のおかずを足す」ことから始めてみてはいかがでしょうか。

2. 調理油をオリーブオイルに置き換える

地中海食の大きな特徴のひとつがオリーブオイルの使用です。炒め物やサラダのドレッシングに、いつもの油の代わりにエクストラバージンオリーブオイルを使うのは、比較的取り入れやすい変化です。

3. 赤身肉・加工肉を週に数回、魚や鶏肉に替える

地中海食では赤身肉や加工肉(ハム・ソーセージなど)の摂取が控えめです。「毎日」ではなく「週に2〜3回」魚や鶏肉に置き換えるだけでも、食事パターン全体が地中海食に近づきます。

🔍 この研究の限界を知っておこう

今回の結果を日常に活かすうえで、いくつかの点に留意が必要です。

  • 観察研究が中心: 含まれた研究の多くは観察研究であり、「地中海食ががんを防ぐ」という因果関係を直接証明するものではありません。地中海食を好む人は、運動習慣や健康意識が高いなど、他の要因も影響している可能性があります。
  • リスク低下の大きさ: 遵守度1ポイントあたりの低下率は3〜17%と「控えめ(modest)」な数値です。論文自身もこれを「modest」と表現しています。
  • 地域・文化の違い: 対象研究の多くは欧米の集団を対象としており、日本人にそのまま当てはまるかは追加の検証が必要です。

とはいえ、800万人超という大規模なデータに基づいた一貫した結果は、食事パターンとがんリスクの関連を考えるうえで重要な根拠となります。

大切なポイント: この研究が示しているのは「地中海食に近い食事パターンの人は、がんリスクが統計的にやや低い」という関連性です。「地中海食を食べればがんにならない」という意味ではありません。がん予防には食事だけでなく、運動、禁煙、適度な飲酒、定期的な検診など、総合的なアプローチが重要です。

読後感

126件もの研究を束ねた今回のメタ分析は、「何を食べるか」ではなく「どんな食事パターンで暮らすか」が、長期的な健康に影響しうることを改めて示してくれました。

地中海食はもともと地中海沿岸の伝統的な食文化から生まれたものですが、その基本原則——野菜や果物を多く摂り、良質な油を使い、加工食品を控える——は、実は日本の伝統的な和食とも通じる部分があります。

あなたの毎日の食卓で、無理なく「1ポイント」だけ地中海食に近づけるとしたら、どんな変化が思い浮かびますか?