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運動科学

筋トレ×プロテインで糖尿病の「インスリン抵抗性」が改善? 60名の高齢男性を対象とした厳密な臨床試験

📄 Effect of resistance training combined with carbohydrate and protein supplementation on the HOMA-IR, glycemic, lipid profile and hypertrophy of older adults with Type II Diabetes: secondary data analysis of a triple-blind RCT.

✍️ Rosa, JL, Dos Santos Lino, MH, Grecco, MV, de Lima, AMS, Dos Santos, JR, da Silva, VC, Greve, JMD, Chavane, FS, Furtado, GE, Alonso, AC

📅 論文公開: 2026年1月

筋力トレーニング 2型糖尿病 プロテイン補給 インスリン抵抗性 高齢者

3つのポイント

  1. 1

    12週間の筋力トレーニングにホエイプロテインを組み合わせると、2型糖尿病の高齢男性でインスリンの効きやすさ(HOMA-IR)が有意に改善しました。

  2. 2

    筋力そのものはプロテインの有無にかかわらず向上しましたが、筋肉の太さ(筋肥大)には明確な変化が見られませんでした。

  3. 3

    血中脂質やHbA1cには有意な変化がなく、効果はインスリン抵抗性の改善に限定的でした。

論文プロフィール

  • 著者: Rosa, JL ほか10名 / 2026年発表
  • 掲載誌: Aging Clinical and Experimental Research(DOI: 10.1007/s40520-026-03374-8)
  • 調査対象: 2型糖尿病を持つ高齢男性 60名
  • 調査内容: 12週間の筋力トレーニングに、ホエイプロテイン・マルトデキストリン(糖質)・プラセボ(着色水)のいずれかを組み合わせた場合の、インスリン抵抗性・血糖値・血中脂質・筋肥大への効果を比較

エディターズ・ノート

「筋トレが糖尿病に良い」「プロテインを飲んだほうがいい」——こうした情報は巷にあふれていますが、両者を組み合わせた場合に本当に代謝が改善するのか、厳密に検証した研究は多くありません。今回は、参加者も研究者も誰が何を飲んでいるか分からない「三重盲検」という非常に厳格な方法で行われた臨床試験をご紹介します。

実験デザイン

この研究は ランダム化比較試験 の中でも特に厳密な「三重盲検」で行われました。三重盲検とは、参加者・トレーナー・データ分析者の全員が、誰がどのサプリメントを摂取しているか分からない状態で実験を進める方法です。

参加者と3つのグループ

60名の2型糖尿病を持つ高齢男性が、以下の3グループに無作為に振り分けられました。

  • プロテイン群(20名): ホエイプロテイン 20g を摂取
  • マルトデキストリン群(20名): マルトデキストリン(糖質の一種)20g を摂取
  • コントロール群(20名): 着色水( プラセボ )を摂取

トレーニング内容

全グループ共通で、週2回・12週間の筋力トレーニングを実施しました。1回のセッションでは6種目のエクササイズを3セット×8〜12回ずつ行い、主観的な努力度をもとに負荷を調整しました。

各グループの参加者数(概念図) 0 4 8 12 16 20 人数 20 プロテイン群 20 マルトデキストリン 20 コントロール群
各グループの参加者数(概念図)
項目 人数
プロテイン群 20
マルトデキストリン群 20
コントロール群 20
各グループの参加者数(概念図)

主な測定項目

  • HOMA-IR: インスリンの効きやすさを示す指標。数値が高いほどインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性が高い)を意味します
  • HbA1c・空腹時血糖: 血糖コントロールの指標
  • 血中脂質(コレステロール・中性脂肪など)
  • 筋肉の厚さ: 上腕二頭筋と大腿四頭筋を超音波で測定
  • 筋力: トレーニング中の挙上重量の推移
🔍 HOMA-IRとは何を測っているのか

HOMA-IR(Homeostasis Model Assessment of Insulin Resistance)は、空腹時の血糖値とインスリン値から計算される指標です。

  • 健康な方の目安はおおむね 1.6以下
  • 2.5以上 になるとインスリン抵抗性が高い(インスリンが効きにくい)と判断されることが多いです

2型糖尿病では、膵臓はインスリンを出しているのに体がうまく反応しない「インスリン抵抗性」が大きな問題となります。この数値が改善するということは、同じ量のインスリンでより効率よく血糖を下げられるようになることを意味します。

結果のまとめ

改善が見られた項目:

  • プロテイン群で HOMA-IR が有意に低下(p = 0.03)。インスリンの効きやすさが改善しました
  • 筋力(挙上重量) はすべてのグループで有意に向上。ローイングとスタンディングカールを除くほとんどの種目で負荷が増加しました

変化が見られなかった項目:

  • 筋肉の厚さ(筋肥大): 上腕二頭筋・大腿四頭筋ともに有意な変化なし
  • 血中脂質: すべてのグループで有意な変化なし
  • HbA1c・空腹時血糖: 有意な変化なし
🔍 なぜ筋力は上がったのに筋肉は太くならなかったのか

筋力の向上と筋肥大(筋肉の太さの増加)は、必ずしも同時に起こるわけではありません。

トレーニング初期に見られる筋力向上は、主に神経系の適応——つまり脳から筋肉への指令が効率化することで起こります。筋繊維そのものが太くなる「筋肥大」は、一般にさらに長い期間(数か月以上)の継続的なトレーニングが必要です。

今回は12週間・週2回という頻度でしたので、神経適応による筋力向上は起きたものの、筋肥大を引き起こすには刺激の量や期間が十分でなかった可能性があります。

日常への活かし方

この研究から得られるヒントを、日常生活の視点で整理してみましょう。

1. 筋トレはサプリの種類に関係なく筋力を高める

今回、プロテインを飲んでも飲まなくても、筋力はしっかり向上しました。大切なのはまず継続的な筋力トレーニングそのものです。週2回、無理のない範囲で続けることが基本になります。

2. プロテイン補給がインスリンの効きやすさを助ける可能性

プロテイン群でのみHOMA-IRが有意に改善した点は注目に値します。2型糖尿病のある方で、すでに筋トレを行っている場合は、トレーニング後にホエイプロテイン(約20g)を摂取することで、インスリン抵抗性の改善を後押しできるかもしれません。

3. ただし過度な期待は禁物

この研究では、血中脂質やHbA1cには変化が見られませんでした。筋トレ+プロテインは万能薬ではなく、食事全体の見直しや医師の指導のもとでの治療と組み合わせることが重要です。

🔍 この研究の限界を知っておく

結果を解釈するうえで、以下の点に注意が必要です。

  • 対象が男性のみ: 女性ではホルモン環境が異なるため、同じ結果になるとは限りません
  • サンプルサイズが60名: 統計的な検出力に限りがあり、小さな効果を見逃している可能性があります
  • 12週間という期間: より長期の介入で結果が変わる可能性があります
  • 二次データ解析: もともと別の目的で集められたデータの再分析であり、仮説検証の強度はやや低くなります

これらを踏まえ、「確実にこうなる」と断言するのではなく、「こうした傾向がある」という参考情報として受け止めるのが適切です。

注記: この研究は2型糖尿病を持つ高齢男性を対象としたものです。健康な方や女性、若年層にそのまま当てはまるとは限りません。サプリメントの導入を検討される場合は、かかりつけ医にご相談ください。

読後感

筋力トレーニングの恩恵は、見た目の変化よりも「体の中の変化」として先に現れることがある——今回の研究はそのことを教えてくれます。

筋肉は目に見えて太くならなくても、インスリンの効きやすさという「見えない健康指標」がじわじわと改善していく。こうした地道な変化こそが、長い目で見た健康の土台になるのかもしれません。

あなたが今の生活に、無理なく「週2回の筋トレ」を取り入れるとしたら、どんな形が続けやすいでしょうか?