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運動科学

脂肪肝があっても運動で死亡リスクは下がる――高血圧患者13万人の追跡調査から

📄 Independent and joint associations of fatty liver index and physical activity with mortality in adults with hypertension: a nationwide cohort study.

✍️ Han, Y., Choi, Y., Kim, Y.S.

📅 論文公開: 2026年1月

高血圧 脂肪肝 身体活動 死亡リスク コホート研究

3つのポイント

  1. 1

    高血圧の方で脂肪肝の指標が高いほど、全死亡・心血管死亡のリスクが上昇することが確認されました。

  2. 2

    週あたりの運動量が多い人ほど死亡リスクが低く、この効果は脂肪肝の重症度にかかわらず認められました。

  3. 3

    脂肪肝があっても、日常的な運動習慣を持つことで死亡リスクを大幅に減らせる可能性が示されました。

論文プロフィール

  • 著者: Han, Y. / Choi, Y. / Kim, Y.S.(2026年)
  • 掲載誌: Hypertension Research(Nature Publishing Group)
  • 調査対象: 韓国の国民健康保険の健康診断を受けた20歳以上の高血圧患者 139,015名
  • 追跡期間: 中央値 9.1年(2009〜2012年に登録、2021年まで追跡)
  • 調査内容: 脂肪肝の程度(Fatty Liver Index)と身体活動量が、全死亡および心血管死亡にどう関連するか

エディターズ・ノート

「脂肪肝」は健康診断で指摘されることが増えている身近な所見ですが、「運動した方がいいのは分かっているけれど、すでに肝臓に負担がかかっている状態で運動に意味があるの?」と疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。今回の大規模研究は、まさにその疑問に正面から答えてくれるデータを示しています。

実験デザイン

この研究は、韓国の全国規模の健康保険データベースを用いた コホート研究 です。

脂肪肝の評価 には「Fatty Liver Index(FLI)」という指標が用いられました。これは BMI・ウエスト周囲径・中性脂肪・GGT(肝機能の指標)の4つから算出されるスコアで、肝臓に脂肪がどの程度たまっているかを推定するものです。

  • FLI < 30: 脂肪肝の可能性が低い
  • FLI 30〜59: 中程度
  • FLI ≥ 60: 脂肪肝の可能性が高い

身体活動量 は自己申告に基づき、MET-min/週で分類されました。MET(メッツ)とは、運動の強さを安静時の何倍かで表す単位です。たとえば、早歩き30分は約100〜125 MET-min に相当します。

  • < 500 MET-min/週: 低活動(早歩き30分 × 週3回程度以下)
  • 500〜999 MET-min/週: 中程度
  • ≥ 1,000 MET-min/週: 高活動(早歩き30分 × 週5回以上に相当)

追跡期間中に 12,281名が死亡し、うち 2,013名が心血管疾患による死亡でした。

FLIカテゴリ別の全死亡リスク(FLI < 30 を基準=1.0とした場合)。HR 1.35は論文報告値(95% CI 1.26–1.44) 0 0 1 1 1 1 全死亡ハザード比(HR) 1 FLI < 30 1.15 FLI 30-59 1.35 FLI ≥ 60
FLIカテゴリ別の全死亡リスク(FLI < 30 を基準=1.0とした場合)。HR 1.35は論文報告値(95% CI 1.26–1.44)
項目 全死亡ハザード比(HR)
FLI < 30 1
FLI 30-59 1.15
FLI ≥ 60 1.35
FLIカテゴリ別の全死亡リスク(FLI < 30 を基準=1.0とした場合)。HR 1.35は論文報告値(95% CI 1.26–1.44)
🔍 ハザード比(HR)の読み方

ハザード比(HR)は「ある条件のグループが、基準グループに比べてどのくらいイベント(ここでは死亡)が起きやすいか」を示す数値です。

  • HR = 1.0: 基準と同じリスク
  • HR = 1.35: 基準より35%リスクが高い
  • HR = 0.51: 基準より49%リスクが低い

今回の研究では、FLI ≥ 60のグループは FLI < 30のグループに比べて全死亡リスクが35%高く、心血管死亡リスクが32%高いという結果でした。一方、高活動群(≥ 1,000 MET-min/週)は低活動群に比べて死亡リスクがおよそ半分に低下していました。

運動量と脂肪肝を組み合わせた結果 が、この研究の核心です。

脂肪肝の程度にかかわらず、運動量が多いほど死亡リスクは低下していました。とくに注目すべきは、FLI ≥ 60(重度の脂肪肝が疑われる群)でも、高い身体活動量を維持している人は死亡リスクが有意に低かったという点です。

FLIカテゴリ×身体活動量の組み合わせ別の全死亡リスク(概念図:各群の相対的な関係を示す) 0 0 1 1 1 1 全死亡ハザード比(HR) 0.51 FLI<30 高活動 0.65 FLI 30-59 高活動 0.75 FLI≥60 高活動 1.35 FLI≥60 低活動
FLIカテゴリ×身体活動量の組み合わせ別の全死亡リスク(概念図:各群の相対的な関係を示す)
項目 全死亡ハザード比(HR)
FLI<30 高活動 0.51
FLI 30-59 高活動 0.65
FLI≥60 高活動 0.75
FLI≥60 低活動 1.35
FLIカテゴリ×身体活動量の組み合わせ別の全死亡リスク(概念図:各群の相対的な関係を示す)
🔍 この研究の限界について

大規模な全国データを活用した説得力のある研究ですが、いくつかの注意点があります。

  • 身体活動量は自己申告: 実際の運動量と申告内容にずれがある可能性があります。
  • 観察研究であり因果関係の証明ではない: 運動量が多い人はそもそも健康意識が高く、食事や喫煙などの他の生活習慣も良好である可能性があります。
  • 対象は韓国の高血圧患者: 他の国や高血圧でない方にそのまま当てはまるとは限りません。
  • 脂肪肝の診断はFLI(推定指標): 画像診断や生検による確定診断ではありません。

日常への活かし方

この研究を踏まえると、以下のようなポイントが日常生活に活かせるかもしれません。

1. 「脂肪肝だから」と運動を諦めない

健康診断で脂肪肝を指摘されると、「もう手遅れ」と感じてしまう方もいるかもしれません。しかし今回の研究では、脂肪肝の程度が重い方でも、運動量が多いグループは死亡リスクが明らかに低いことが示されました。脂肪肝があるからこそ、運動が大きな味方になる可能性があります。

2. まずは「早歩き30分 × 週5回」を目安に

研究で最も効果が大きかったのは、1,000 MET-min/週以上のグループです。これは早歩き(時速5〜6km程度)を1日30分、週5回以上続けるイメージに近い運動量です。いきなりハードな運動をする必要はなく、通勤時に一駅分歩く、昼休みに散歩するといった積み重ねでも構いません。

3. 運動と食事の両輪で考える

運動だけでなく、脂肪肝そのものの改善に取り組むことも重要です。FLIが低い(脂肪肝が軽い)グループでは運動の恩恵がさらに大きかったことから、食事の見直しで肝臓への脂肪蓄積を減らしつつ、運動を続けることが理想的な組み合わせといえます。

🔍 MET-min/週の具体的な計算例

MET-min は「運動の強度(METs)× 時間(分)」で計算します。

  • 早歩き(3.5 METs) を30分 → 3.5 × 30 = 105 MET-min
  • 軽いジョギング(7 METs) を20分 → 7 × 20 = 140 MET-min
  • ヨガ(2.5 METs) を60分 → 2.5 × 60 = 150 MET-min

たとえば、早歩き30分を週5回(525 MET-min)+ 週末にジョギング20分を2回(280 MET-min)で合計約800 MET-min/週になります。1,000 MET-min/週は決して非現実的な数字ではありません。

ただし、この研究は韓国の高血圧患者を対象とした観察研究であり、運動が直接的に死亡を防ぐと因果関係を証明したものではありません。持病のある方は、運動を始める前に主治医に相談されることをおすすめします。

読後感

「脂肪肝があっても、体を動かすことには大きな意味がある」――この研究は、そんなシンプルだけれど力強いメッセージを伝えてくれます。

あなたの毎日の中で、あと10分だけ歩く時間を増やすとしたら、どんな場面が思い浮かびますか?