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メンタルヘルス

職場の“やっかいな人”の正体? ダークトライアドといじめ加害の関連を解明

📄 Dark Triad traits and workplace bullying: a systematic review and meta-analysis of personality, power, and psychosocial safety.

✍️ Sui, SX., Malik, S., Tiliopoulos, N., Yu, L.

📅 論文公開: 2026年1月

職場 メンタルヘルス パーソナリティ

3つのポイント

  1. 1

    職場でのいじめ行為には、加害者の特定の性格特性が関連している可能性が指摘されています。

  2. 2

    本研究は、他者への共感性の欠如などを特徴とする「ダークトライアド」といじめ加害の関連を調べた複数の研究を統合・分析しました。

  3. 3

    分析の結果、特に「サイコパシー(冷淡さ・衝動性)」の特性が、職場でのいじめ行為と最も強い関連があることが明らかになりました。

論文プロフィール

  • 著者名 / 発表年 / 掲載誌: Sui, S.X. ら / 2026年 / Frontiers in Psychology
  • 調査対象: 職場における「ダークトライアド」と呼ばれる性格特性といじめ加害の関連を調査した先行研究9件
  • 調査内容: 複数の研究データを統合し、ダークトライアド(マキャベリズム、ナルシシズム、サイコパシー)の各特性が、職場でのいじめ行為とどの程度強く関連しているかを統計的に分析しました。

エディターズ・ノート

職場の人間関係は、私たちの心の健康に大きな影響を与えます。特に、理不尽ないじめやハラスメントに悩む方は少なくありません。

「なぜ、あの人はあんな振る舞いをするのだろう?」

この問いに対し、パーソナリティ(性格特性)という観点から科学的な光を当てるのが、今回ご紹介する論文です。特定の性格がいじめ行為とどう関連するのかを知ることは、自分自身を守り、より良い職場環境を考える上での一つのヒントになるかもしれません。

実験デザイン

この研究は、特定のテーマに関する複数の独立した研究結果を収集し、統計的に統合・分析する メタアナリシス という手法を用いています。個々の研究だけでは見えにくい、より信頼性の高い全体像を明らかにすることを目的としています。

今回は、ダークトライアドと呼ばれる3つの性格特性と、職場でのいじめ加害行動との関連の強さ(相関係数)を統合しました。結果は以下の通りです。

ダークトライアドの各特性と職場いじめ加害の関連度(概念図) 0 0 0 0 0 0 いじめ加害との関連の強さ(相関係数) 0.47 サイコパシー 0.35 マキャベリズム 0.28 ナルシシズム
ダークトライアドの各特性と職場いじめ加害の関連度(概念図)
項目 いじめ加害との関連の強さ(相関係数)
サイコパシー 0.47
マキャベリズム 0.35
ナルシシズム 0.28
ダークトライアドの各特性と職場いじめ加害の関連度(概念図)

分析の結果、3つの特性すべてがいじめ加害と正の相関を示しました。中でも「サイコパシー」が最も強い関連を持つことが示唆されています。

🔍 「ダークトライアド」とは?

ダークトライアドは、心理学において反社会的な傾向を持つとされる3つの性格特性の総称です。

  • マキャベリズム: 目的のためなら手段を選ばず、他人を巧みに利用・操作しようとする傾向。
  • ナルシシズム: 自分は特別であるという意識が強く、過剰な賞賛を求め、自己中心的な傾向。
  • サイコパシー: 他人の気持ちに対する共感性が著しく低く、衝動的で、罪悪感を感じにくい傾向。

これらは誰にでもある程度の傾向として存在しますが、極端に強い場合は対人関係に深刻な問題を引き起こすことがあると考えられています。

日常への活かし方

この研究結果は、職場の人間関係で悩む私たちに、いくつかの視点を提供してくれます。

1. 相手の特性を理解し、自分を守る行動をとる

もしあなたの周りにダークトライアドの傾向が強い人がいる場合、その言動に深く傷ついたり、「自分が悪いのでは」と思い詰めたりする必要はないかもしれません。

「これは相手の特性であり、簡単には変えられないものかもしれない」と理解することは、精神的な負担を軽減する第一歩になります。相手を変えようと奮闘するよりも、物理的・心理的に適切な距離を保ち、自分を守ることを優先しましょう。

2. 「個人の問題」から「組織の仕組み」へ

この研究は、いじめが単なる個人の感情のもつれではなく、加害者のパーソナリティという根深い要因と関連することを示唆しています。

つまり、当事者同士の話し合いだけで解決するのは非常に困難なケースがあるということです。このような問題を未然に防ぎ、起きてしまった場合に対処するには、組織としての仕組みが不可欠です。

例えば、

  • 誰もが安心して意見を言える「心理的安全性」の高い文化づくり
  • 公平な評価制度の導入
  • 匿名で相談・通報できる窓口の設置

などが挙げられます。一個人の問題として抱え込まず、組織全体で取り組むべき課題として捉えることが重要です。

🔍 研究の限界:相関関係は因果関係ではない

この研究で重要なのは、ダークトライアドの特性と「いじめ加害」の間に関連(相関)が見られたという点です。これは「ダークトライアドの特性を持つから、いじめる」という原因と結果(因果関係)を証明したものではありません。

もしかしたら、別の要因(例えば、ストレスの多い職場環境)が、ダークトライアド傾向を強め、同時にいじめ行動を引き起こしている可能性も考えられます。

「あの人はサイコパスだからいじめるんだ」と安易にレッテルを貼るのではなく、あくまで傾向として理解し、冷静な対処を考えるためのヒントとして活用することが大切です。

もちろん、この研究結果がすべての人や状況に当てはまるわけではありません。しかし、職場の対人関係をより客観的に見つめ直すきっかけにはなるでしょう。


読後感

職場の人間関係は、一日の大半を過ごす私たちにとって、QoL(生活の質)を左右する大きな要素です。今回の研究は、目に見えにくい「性格」というものが、職場の環境にどう影響しうるかを示してくれました。

あなた自身の職場環境を、より安全で健全なものにするために、個人として、また組織の一員として、明日からできる小さな一歩は何でしょうか?