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メンタルヘルス

不安になりやすい遺伝的傾向、実は食生活に影響?最新研究が示す心と食事の意外な関係

📄 Genetic Predispositions for Anxiety Disorders and Major Depressive Disorder Affect Current Dietary Habits in Older Patients with Lifestyle-Related Diseases.

✍️ Ohi, K., Nishizawa, D., Fujikane, D., Hasegawa, J., Sato, N., Tanioka, F., Sugimura, H., Ikeda, K., Shioiri, T.

📅 論文公開: 2026年1月

メンタルヘルス 食生活 遺伝 不安 うつ病

3つのポイント

  1. 1

    不安症になりやすい遺伝的傾向を持つ高齢者は、無意識に健康を気遣い、果物の摂取量が多くなる可能性が示されました。

  2. 2

    一方で、うつ病になりやすい遺伝的傾向は、野菜や果物の摂取量が少なく、肉類の摂取量が多い食生活と関連する傾向が見られました。

  3. 3

    心に抱える不安や心配が、かえって健康的な食生活(代償行動)につながる可能性を示唆する、興味深い研究です。

論文プロフィール

  • 著者名 / 発表年 / 掲載誌: Ohi, K. et al. / 2026年 / International Journal of Neuropsychopharmacology
  • 調査対象: 生活習慣病(高血圧、糖尿病、がんなど)と診断された、またはその疑いのある日本の高齢外来患者730名
  • 調査内容: 不安症やうつ病の遺伝的リスク(なりやすさ)と、日常の食習慣(味噌汁、日本茶、野菜、果物、肉類など8項目)との関連を調査

エディターズ・ノート

「気分が落ち込むと、つい甘いものに手が伸びる」「不安な時は食事が喉を通らない」。 私たちの心と食事が密接に関わっていることは、多くの人が経験的に知っているかもしれません。

では、生まれ持った「心のクセ」や「気質」と、日々の食生活には、本当に関連があるのでしょうか? この興味深い問いに、遺伝子レベルで迫った日本の研究をご紹介します。

実験デザイン

本研究では、730名の高齢の患者さんにご協力いただき、食生活に関するアンケートと遺伝子情報の解析を行いました。

遺伝子情報からは、たくさんの遺伝子の組み合わせを考慮して、個人ごとの「不安症のなりやすさ」と「うつ病のなりやすさ」をスコア化しました。これを バイオマーカー の一種である「多遺伝子リスクスコア(PRS)」と呼びます。

そして、このPRSと、8つの食品カテゴリーの摂取頻度にどのような関連があるかを統計的に分析しました。

その結果、不安症とうつ病の遺伝的リスクと食習慣には、それぞれ異なる傾向が見られました。

遺伝的傾向と食習慣の関連性(概念図) 0 14 28 42 56 70 健康的な食事への意識(イメージ) 70 不安の遺伝的リスク 30 うつの遺伝的リスク
遺伝的傾向と食習慣の関連性(概念図)
項目 健康的な食事への意識(イメージ)
不安の遺伝的リスク 70
うつの遺伝的リスク 30
遺伝的傾向と食習慣の関連性(概念図)
  • 不安の遺伝的リスクが高い人:
    • 果物の摂取量が有意に多い傾向が見られました。
  • うつの遺伝的リスクが高い人:
    • 果物、日本茶、野菜、大豆の摂取量が少なく、肉類の摂取量が多い傾向が見られました。

研究チームは、不安になりやすい傾向を持つ人は、自身の健康に対する心配から、かえって健康的な食事を心がける「代償行動」をとっているのではないかと考察しています。

🔍 多遺伝子リスクスコア(PRS)とは?

一昔前は「〇〇遺伝子があれば、病気になる」というように、一つの遺伝子で病気のリスクが語られることがありました。 しかし、不安症やうつ病、生活習慣病といった多くの病気は、たった一つの遺伝子ではなく、たくさんの遺伝子の小さな影響が積み重なって発症しやすさが決まると考えられています。

多遺伝子リスクスコア(Polygenic Risk Score: PRS)は、この考え方に基づき、数百から数百万個の遺伝子情報を統合して、個人が特定の病気にどれくらい「なりやすいか」を評価する指標です。 あくまで「確率」や「傾向」を示すもので、運命を決めるものではありませんが、個人の健康管理に役立つ情報として注目されています。

日常への活かし方

今回の研究結果は、私たちの心の状態と食生活のつながりを考える上で、新しい視点を与えてくれます。ただし、結果を解釈する際にはいくつかの注意点があります。

まず、これは「遺伝子で食生活が決まる」という話ではありません。あくまで「そういう傾向が見られた」という相関関係を示したものであり、因果関係を証明するものではないことを心に留めておく必要があります。

その上で、私たちの日常に活かせるヒントを2つご紹介します。

1. 「心の状態」を食生活のバロメーターにしてみる

「なんだか最近、食事が偏っているな」と感じたら、それは心のサインかもしれません。

  • 不安を感じやすい方へ: もしあなたが心配性なタイプなら、無意識のうちに健康を気遣い、バランスの取れた食事を選べているのかもしれません。ご自身の行動を「健康へのアンテナが高い」と肯定的に捉えてみましょう。
  • 気分が落ち込みがちな方へ: 心が疲れている時は、食事の準備が億劫になり、栄養バランスが崩れがちになることも。そんな時こそ「今日は野菜を一品だけ足してみよう」「果物を一つ食べてみよう」と、小さな一歩を意識してみてはいかがでしょうか。

2. 自分の「代償行動」に気づく

研究では、不安が「健康的な食事」というポジティブな代償行動につながる可能性が示唆されました。

ストレスを感じた時、あなたはどんな行動をとりがちですか?

  • 甘いものをたくさん食べる
  • 運動して汗を流す
  • お酒を飲む
  • 友人と話す

自分のストレス解消法(代償行動)を客観的に観察してみましょう。もしそれが不健康な習慣であれば、今回の研究のように「果物を一つ食べる」「温かいお茶を一杯飲む」といった、心と体にやさしい選択肢を試してみるのも良いかもしれません。

🔍 研究結果の解釈における注意点

この研究は非常に興味深いものですが、いくつかの限界点も理解しておくことが大切です。

  • 対象者の偏り: 今回は生活習慣病を持つ日本の高齢者が対象でした。そのため、健康な若者や他の国の人々にも同じ結果が当てはまるとは限りません。実際に、イギリスの一般集団(UKバイオバンク)のデータでは、不安の遺伝的リスクも果物の摂取量が「少ない」ことと関連しており、結果が一部異なりました。文化や生活環境も複雑に関わっている可能性があります。
  • 効果の大きさ: 統計的に意味のある関連が見つかりましたが、その影響力は実はごくわずかです。例えば「不安リスクと果物摂取」の関連の強さ(R2値)は0.010でした。これは、果物を食べるかどうかの個人差のうち、不安の遺伝的リスクで説明できるのはわずか1%程度、という意味になります。食生活には、遺伝以外にも食の好み、経済状況、家庭環境など、もっと多くの要因が影響していることを忘れないようにしましょう。

読後感

私たちの体は、私たちが思う以上に、心の声に耳を傾けているのかもしれません。

あなたご自身の気分と食生活のつながりについて、少しだけ意識を向けてみませんか?そして、あなたの心と体は、今、どんな食べ物を求めていると感じますか?